第1章- 第1話

朝、世界は数字で目を覚ます。

毎朝、街の中央にある評価塔で六時に更新されるこのランキングが、
今日の会話のすべてを決める。

「おい、マジかよ?シンティラが4万突破してるぞ」
「昨日はロギスレーンで通行人に水ぶっかけたらしいぜ。
 毎日何かしでかしてやがるよな。ははは」

評価塔の巨大スクリーンに映し出される「灯数(ともしすう)」ランキング。

そこには、美男美女、歌い人、ダンスパフォーマー、
ビッグマウス、嘘つき、泣き虫、お調子者――

あらゆる人目を集める者たちの名前が並んでいる。

この世界の住人は、生まれながらに核と呼ばれる器官を胸に宿す。
そしてその核には、3つの特性が宿るという。

ひとつは「灯数(ともしすう)」
人々にどれほど火を灯したか。

その数字は、毎朝更新されるランキングに刻まれ、
街のヒエラルキーそのものを形作る。

もうひとつは「煌力(こうりょく)」
個の輝き。
才能、容姿、技能、立ち居振る舞い…それらが放つ光。

数値化はされないが、その光は人によって色が違い、
強い光を放つ者の眩しさは誰の目にも見える。
そして、それに憧れる者たちの数が灯数にも反映される。

そして最後が「傷紋(しょうもん)」
誰かのために負った痕跡。
自分を大切にできない者の証として忌み嫌われ、
恥や汚れとして扱われる。

それもまた、核に刻まれて消えることはない。

「ほら、あのじいさん見てみろよ。傷紋だらけ。情けないねぇ。」
「煌力もほとんど見えもしねぇ。ああなったら終わりだな。」

そんな言葉が飛び交うなか、一人の少年が巨大スクリーンの前で足を止めた。

彼の名前はルクス。
灯数は「12」。

近くに住む同世代の仲間たちから寄せられたことがある数字のみ。
でもルクスは、そのランキングに自分の名前を刻むことを夢見ていた。

ルクス:「僕も……いつか、この一番上に……」

そのつぶやきに、近くにいた老人が反応した。

その老人の体はボロボロで、核には無数にわたる複雑な痕が浮かび上がっていた。
それは傷紋。そしてその数、目視で数えきれないほど──

老人はにやりと笑って言った。

謎の老人:「そこの少年。お前も燃やされる道を選ぶのかい?」

ルクス:「……?」

謎の老人:「火は灯せば灯すほど……誰かを焦がしてしまうことがある。」

ルクス:「……。」

老人はしばらく何かを思い出すように黙っていた。
そして、ゆっくりと口を開いた。

謎の老人:「火はな……誰かを導くために灯すんだよ。」

ルクス:「……?」

老人はそれ以上何も言わず、背を向けて立ち去っていった。

その老人の核に刻まれた無数の痕。
誰かを守るために、誰かに尽くした証。

それが今では恥として扱われているという現実。

ルクスは知らなかった。

自分が憧れていたこの世界が、
最も美しいものを見失っていたということを。

老人が去ったあと、スクリーンの光がルクスを照らす。
そこにはたくさんの名前が踊っていた。

そのどこにも、傷紋を持つ者の名はなかった。