朝、世界は数字で目を覚ます。
毎朝、街の中央にある評価塔で六時に更新されるこのランキングが、
今日の会話のすべてを決める。
「おい、マジかよ? “シンティラ” が4万突破してるぞ」
「昨日はロギスレーンで通行人に水ぶっかけたらしいぜ。
毎日何かしでかしてやがるよな。ははは」
評価塔の巨大スクリーンに映し出される “灯数(ともしすう)” ランキング。
そこには、美男美女、歌い人、ダンスパフォーマー、
ビッグマウス、嘘つき、泣き虫、お調子者――
あらゆる “人目を集める者たち” の名前が並んでいる。
この世界の住人は、生まれながらに “核” と呼ばれる器官を胸に宿す。
そしてその “核” には、3つの特性が宿るという。
ひとつは「灯数(ともしすう)」──人々にどれほど “火” を灯したか。
その数字は、毎朝更新されるランキングに刻まれ、
街のヒエラルキーそのものを形作る。
もうひとつは「煌力(こうりょく)」──個の輝き。
才能、容姿、技能、立ち居振る舞い……それらが放つ光。
数値化はされないが、その光は人によって色が違い、
強い光を放つ者の眩しさは誰の目にも見える。
そして、それに憧れる者たちの数が灯数にも反映される。
そして最後が「傷紋(しょうもん)」──誰かのために負った痕跡。
自分を大切にできない者の証として忌み嫌われ、
“恥”、 “汚れ” として扱われる。
それもまた、核に刻まれて消えることはない。
「ほら、あのじいさん見てみろよ。傷紋だらけ。情けないねぇ。」
「煌力もほとんど見えもしねぇ。ああなったら終わりだな。」
そんな言葉が飛び交うなか、一人の少年が巨大スクリーンの前で足を止めた。
彼の名前はルクス。
灯数は「12」。
近くに住む同世代の仲間たちから寄せられたことがある数字のみ。
でもルクスは、そのランキングに自分の名前を刻むことを夢見ていた。
ルクス:「僕も……いつか、この一番上に……」
そのつぶやきに、近くにいた老人が反応した。
その老人の体はボロボロで、核には無数にわたる複雑な痕が浮かび上がっていた。
それは “傷紋”。そしてその数、目視で数えきれないほど──
老人はにやりと笑って言った。
謎の老人:「そこの少年。お前も “燃やされる道” を選ぶのかい?」
ルクス:「……?」
謎の老人:「火は灯せば灯すほど……誰かを焦がしてしまうことがある。」
ルクス:「……。」
老人はしばらく何かを思い出すように黙っていた。
そして、ゆっくりと口を開いた。
謎の老人:「火はな……誰かを導くために灯すんだよ。」
ルクス:「……?」
老人はそれ以上何も言わず、背を向けて立ち去っていった。
その老人の核に刻まれた無数の痕。
誰かを守るために、誰かに尽くした証。
それが今では “恥” として扱われているという現実。
ルクスは知らなかった。
自分が憧れていたこの世界が、
最も美しいものを見失っていたということを。
老人が去ったあと、スクリーンの光がルクスを照らす。
そこにはたくさんの名前が踊っていた。
――そのどこにも、“傷紋” を持つ者の名はなかった。